中東の冷戦 サウジvsイラン

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中東の紛争は大国サウジアラビアとイランの代理戦争である

 中東情勢は大きな構図で見ると冷戦状態にあると言える。君主により半ば独裁的に政治が行われているサウジアラビアと、1978年のホメイニによる革命以来イスラム原理主義者的な政府によって統治されているイランとの覇権争いである。21世記になって以来中東での紛争には、ほとんどこの二国が何かしろの形で関わっている。まず前提として両国はもちろんイスラム教の国であるが、宗派が異なる。イスラム教は大きく分けて、多数派のスンニ派と少数派シーア派に分かれており、サウジアラビアスンニ派でイランがシーア派である。スンニ派シーア派は、キリスト教カトリックプロテスタントとは違って歴史的にみると争いは少なかった。しかし宗派が異なる両国は、中東での覇権を拡大しようと周辺国内にいる同じ宗派の勢力を支援しながら、直接的にではなく、代理戦争という形で争っている。さらに中東での冷戦はこの二つの大国だけではなく、アメリカは世界最大の武器輸出相手であるサウジアラビアを支援しており、ロシアや中国はイランを支援している。

シリアのケース
 中東での内戦としてはシリアの内戦が一番記憶に新しいだろう。2012年頃に独裁政治を行ってきたシリアのアサド大統領と反政府勢力との内戦が勃発してから戦況が急激に激化し、2013年ごろには完全に国際的な代理戦争となった。アサド政権と近い関係にあったイランが政権側を支援したことで勢力拡大を恐れたサウジアラビアは反政府勢力を支援し、シリアに軍港を置いていてアサド政権とも比較的良好な関係にあるロシアが支援を始め、アサド政権を「世界最悪の独裁者の1人」に挙げたアメリカが反政府勢力を支援した。
トランプ政権になってからはアメリカがシリアから撤退したことで、アサド政権側が支配領域を拡大したが軍事衝突は続いている。この内戦により国内では45万人以上の死者と、数百万人に及ぶ大量の難民が国外へ移った。この内戦がシリアだけでなく周辺の国々にも影響をあてたことがわかる。

イエメンのケース
 同様のケースだが、シリアと比べてあまり注目されなかったイエメンの内戦がある。2011年のアラブの春の影響により30年以上独裁政治を行ってきたサーレハ大統領の退陣を求める運動が活発になり、他国からの圧力もあったことで政権は崩壊した。しかし新政府の形成に不満を抱いたサーレハ大統領は軍を率いて、反政府勢力のフーシ派と軍事衝突を繰り返した。フーシ派の多くがシーア派イスラム教徒でるあることからイランの影響力が増加することを懸念したサウジアラビアはサーレハ大統領を支援し、フーシ派の地区への空爆を開始した。空爆は市民が生活する町にも行われたため、1万2000人の一般市民が死亡し、経済封鎖や食料支援が止められたことにより1200万人の人が飢餓に直面した。サウジアラビアへ大量の兵器を輸出しているアメリカ国内では軍事支援に対して反対の声が上がり、国会ではサウジアラビアへの軍事支援を停止する法案が可決したが、トランプ大統領が拒否権を発動したことで支援は続行された。現在では一部停戦状態にあるが未だに内戦は続いており、一般市民の犠牲者が増える一方だ。

 このように中東ではサウジアラビアとイランという大国によって各地で代理戦争が行われており、それに便乗するようにアメリカやロシアなどの大国が関与することで中東国々の内戦は複雑化している。大国同士が直接戦争するのではなく、代理を挟みながら覇権争いを行うことで正面衝突を避けているのだが、米中の関係が悪化していく中、今後このような代理戦争が中東に関わらず世界各国で増えていくかもしれない。