アフガニスタン情勢ー『アメリカ史上最長の戦争』

 

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 アフガニスタンは古くから周辺国により支配され、内陸国であることから人の往来が盛んであったため現在でも多くの民族により形成されている。19世紀には二度にわたる戦争によりイギリスを苦しめたが1880年に保護国化されたが、再び第一世界大戦後独立を勝ち取った。その後は比較的安定した国家として国外からバックパッカーなど観光客も多かった。
 情勢が大きく変化したのは1979年ソ連によるアフガニスタン侵攻である。冷戦期であった当時、ソ連は中東における影響力を確保するためアフガニスタン社会主義政権を支持した。その政権に対抗していたイスラーム勢力をアメリカやパキスタンが支持し、代理戦争と化した内戦は加熱した。イスラーム勢力は社会主義政党によるイスラームの弾圧に対抗するため、ソ連との戦争を「ジハード(聖戦)」としてイスラーム組織ムジャヒディーンを中心にアメリカの支援を受けながら抵抗した。そのイスラーム勢力の中には、後にアルカイダを組織することになるオサマ・ビンラディンもいたことは有名な話だ。
 当初予想していた以上に長期化した戦争によりソ連の経済状況は悪化し、1988年にアフガニスタンから撤退したことで社会主義勢力が敗れた。長年の内戦により周辺国のパキスタンやイランに600万人以上の難民が押し寄せ、そのなかにはもちろん多くの子供達も含まれていた。パキスタンの難民キャンプ内に設けられたイスラーム教徒の学校マドラサイスラーム原理主義的な教育を受けた子供達の多くは、後に祖国奪還を目的とする「タリバン」を組織した。
 パキスタンから支援を受けながらタリバンは急速に台頭し、1990年代の終わりにはアフガニスタンの90%程を支配した。この時期のアフガニスタンタリバンによる非常に厳しい支配により比較的治安が良かったと言われている。ところがアフガニスタンを再度混沌と化すような出来事が発生する。2001年9月11日米国に対する同時多発テロである。この事件の実行に及んだグループは、先のソ連との戦争でアメリカが支援をしていたイスラーム勢力出身のオサマ・ビンラディン率いる「アルカイダ」である。タリバンはこの事件に直接は関与していないものの、テロ実行後アルカイダを保護したことによりアルカイダと並んでアメリカによる攻撃のターゲットとなった。
 アメリカによる激しい攻撃のよって攻撃開始一ヶ月程でタリバンは敗れ、多くのメンバーはパキスタンへ逃れた。その後アフガニスタンではアメリカによる現在まで続く国づくりが開始されることとなる。2001年12月にはドイツで開催された国際会議によって暫定大統領にカルザイ氏が選ばれた。さらに2003年にはアフガニスタン国内で行われた国民大会議においてカルザイ氏が正式に大統領として選ばれ、アフガニスタンでの国家建設は完了したように思われた。しかしアメリカの攻撃を受け弱体化したタリバンは徐々に力をつけていき、遂に2005年ごろから再び新政府との内戦に陥った。
 その後国土のほとんどを支配したタリバンは政府を圧倒し、武力によるタリバン撃退は困難なことであるように思われた。実際この時期のアフガニスタン国民を対象にした調査によると多くの人がタリバンとの和平を望んでおり、政府内にタリバンを組み込むことが必要なのではないかという意見も多く上がった。武力行使からタリバンとの和平交渉に乗り出した政府、並びに国連はPTS(平和強化プログラム)など和平交渉プログラムを試みたが、新政府をアメリカの傀儡と見ていたタリバンは和平交渉に乗る気ではなかった。
 もちろん長引く内戦による犠牲も多く、ここ10年だけで民間死者は10万人以上、家を失い難民となった人の数はパキスタンにいる数だけで150万人以上に登る。一向に和平交渉進展しないように見えていたが、2016年にトランプ大統領が就任して以降事態は急変した。トランプ大統領といえば選挙中からアメリカ第一主義を掲げ、中東をはじめとした国外の情勢にアメリカが関与することを嫌い、それはアフガニスタン情勢に関しても同じであった。
 2018年和平交渉は一気に進展した。トランプ大統領タリバンが望んできたアメリカとの直接的な和平交渉を受け入れた。アメリカの兵士をアフガニスタンから撤退させることを引き換えに、今後タリバンが国際テロ組織を保護しないことで合意された。ところがその合意は直前でアメリカ側により取り消された。同時期にタリバン兵士によるアメリカ兵殺害という事件もあり、このタイミングで和平合意行うことは2020年の大統領選挙に不利な事であると考えたトランプ大統領による判断であった。
 しかしアメリカ政府内からもタリバンとの和平を求める声が多くなったこともあり、2020年2月29日に長年仲介役を買って出てきたカタールの首都ドーハでアメリカとタリバンの和平合意が行われた。
 様々な紆余曲折がありながら18年にも及んだアメリカ史上最長の戦争が終結した。1979年のソ連侵攻から始まった内戦、大国間の代理戦争を経験したアフガニスタンは今後国内の安定が約束されているわけではない。内戦が再燃焼し再び多くの犠牲者と難民を生み出す可能性もそう低くはない。しかし長年争い続けたタリバンを今後の国家建設に取り込みながら、アフガニスタン繁栄へと進みだす必要があると感じた。